2014年2月3日月曜日

第九幕 人生の特等席 

「人生の特等席」は2012年のアメリカ映画。
クリント・イーストウッド演じる大リーグのスカウトマンと娘との愛情がテーマ。
イーストウッドはグラン・トリノ(2008年)以来の久々の主演作。

アトランタ・ブレーブスのスカウトを長年務めてきたガス(イーストウッド)は、選手を発掘するため全米をくまなくめぐる生活を長年続けてきました。自然、家族との時間は犠牲にあってしまいます。

球団側から引退を勧められるものの、野球を愛するガスは聞き入れません。経験と観察眼に頼った彼のスカウト手法はしだいに時代遅れになっていたのです。偏屈なガスは球団から疎まれることになります。

そんな孤独なガスのもとを訪ねるのが、一人娘のミッキー。弁護士事務所で働くキャリアウーマンでしたが、久方ぶりに姿を見せます。幼いころから親子でアマチュアの選手を追い続けてきたミッキーは、父親のスカウト業を助けようとしゃかりきになります。父はそんな娘をいぶかしみます。彼女は自らの仕事振りが認められないことに傷つき、事務所を飛び出したのでした。

父娘はあるアマチュア選手を追い続けます。ボー・ジェントリーという長距離打者です。他球団もマークするほどの好素材。ガスはあるスカウトの姿を認めます。かつて自らが投手として発掘したジョニーでした。彼は将来を期待されていたものの、選手としては芽が出ずスカウトに転身したのです。

メジャーリーガーにはなれなかったものの、屈託のない好青年。自然、ジョニーとミッキーの間に恋が芽生えます。それをまぶしそうに眺めるガス。

しかし、彼には不安がありました。ひとつはミッキーの弁護士としての将来。娘の職場での孤立。それを支えるパートナーにも恵まれない、いや異性に心が開けないのは、仕事優先で幼少期に娘に寄り添えなかったせいではないかと悔いるのです。事実、そこにはある秘密が隠されているのですが…。


もうひとつの不安は本業のスカウト。球団側はボー獲得の意向を固めますが、ガスは彼の欠点を見抜いていました。この映画の原題は「Trouble with the curve」。つまり変化球に弱いのです。ところがデータ重視に凝り固まった球団と、スカウトの責任者たちはガスの意見を聞き入れません。球団はボーの指名を強行。ガスは球団を去ることになります。

老境にして、唯一心のよりどころであった野球を奪われたガス。
老スカウトマンの眼力の正しさを証明したのが、なんとミッキーでした。彼女は無名のアマチュアピッチャーを連れて、ブレーブスの本拠地に現れます。彼はボーのアマチュア時代に球場で売り子をしていた青年でした。彼は得意球のカーブを放ります。どこの馬の骨かもしれない投手との対戦を強いられたボーはいきり立ちますが、カーブに手も足も出ません。将来の主軸として自信を持って球団が獲得したボーは、ガスの見立てどおり見掛け倒しでした。

ジョニーと旅立っていく愛娘のミッキーを、ガスはまぶしそうに見送ります。
おとぎ話のようですが、野球は金やデータでするものではない。1球のボールと一本のバットから思いもよらないドラマが生まれるスポーツなのです。

スカウトという普段日のあたらない役どころに目をつけたのも、この映画に深みを与えています。日本のスカウトがまさに影のような存在なのに対して、アメリカには球場で目だって仕方のないスカウトもままいるようです。野茂の現役時代のこと。バックネット裏でスピードガンを構えている白ずくめのスーツのスカウトが必ず中継に映っていたこともありました。

とはいえ、その実態は一般にはあまり知られてはいません。ですからガス=イーストウッドのように80歳の超ベテランスカウトがいたとしてもあまり違和感がありません。そんな厄介者扱いのオールドボーイが、一躍ヒーローになるラストは野球というスポーツの痛快さをあらためて教えてくれるようです。










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