2013年12月10日火曜日

第一幕 リンカーン  

リンカーン 

ダニエル・デイ=ルイス主演、スティーブン・スピルバーグ監督、2012年公開

あらすじ

南北戦争時代のアメリカ。戦争は4年目を迎え、戦況はリンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)率いる北軍に有利となっていました。

ところがリンカーンは、奴隷制度を廃止する合衆国憲法修正13条を下院で批准させるまでは戦争を終わらせまいとしました。南北戦争中に「奴隷解放宣言」が発布されていたものの、この宣言によって実際に開放される奴隷はわずかだったからです。宣言は南部連合(南軍)支配地域の奴隷解放を命じたもので、連邦側(北軍)は対象外でした。

こうしてリンカーンは国務長官ウィリアム・スワード(デヴィッド・ストラザーン)らと共に憲法修正に乗り出します。奴隷解放を政治目標に掲げていたのは共和党でしたが、リンカーンらは共和党の提案に賛成するよう民主党議員の切り崩しを図ることになります。映画で描かれる議会工作はかなり露骨。次の改選で当選があやぶまれそうな民主党議員のもとにロビーストたちを走らせます。そして落選しても生活ができるよう職をあっせんするのです。

しだいに民主党側にも、リンカーンらの提案に賛成する議員がちらほらと出てきますが、それでも批准にはまだまだ票数が足りません。そうこうしているうちに、リンカーン政権にとんでもない事態が持ち上がります。講和の使者が南部連合側からワシントンにやってきたのです。さきほどの奴隷解放宣言は戦時中の一時的な立法措置。南北戦争が終結すると効力を失ってしまいます。アメリカ国民の誰しもが、一刻も早い戦争終結を望んでいる。ところが、リンカーンはこの使者の存在を秘密にしておくよう側近に指示します。

この秘密工作が露見して、さあ大変。議会が、国中が騒然となる中で憲法修正13条批准の採択が行われることになるのです。


Abraham Lincoln head on shoulders photo portrait.jpg

ヒットのわけ

アメリカ国民の間でもっとも人気のある大統領、リンカーン。そのリンカーンを取り上げるのだから、ヒットは約束されていたといえるのかもしれません。それでも多様な顔をもつリンカーンを、わずか2時間余りの作品に凝縮するのは難しかったのでしょう。

奴隷解放の父リンカーンはだたの理想家だったわけではありません。奴隷について、次のようなことも述べています。

「この戦争における私の至上の目的は、連邦を救うことにあります。奴隷制度を救うことにも、亡ぼすことにもありません。もし奴隷は一人も自由にせずに連邦を救うことができるものならば、私はそうするでしょう。そしてもしすべての奴隷を自由にすることによって連邦が救えるならば、私はそうするでしょう」

リンカーンは奴隷制度については否定的でも肯定的でもなかった。奴隷に依存する南部連合の力をそぎたかった-。などいったことも指摘されています。映画のラストで共和党の奴隷解放の急進派であったタデウス・スティーブンス議員が黒人のメイドとベッドをともにするシーンが登場しますが、それがリンカーンの奴隷に対するスタンスをわずかに暗示しているのではないでしょうか。

スピルバーグは憲法修正13条の採択をめぐる議会での駆け引きと、家族関係に焦点を絞ったのでしょう。リンカーンの妻メアリー(サリー・フィールド)はホワイトハウスでの生活に精神を病み、息子ロバート(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)はリンカーンの反対を押し切って南北戦争に従軍するといってききません。そこには一人の家庭人としてのリンカーンの苦悩が描かれている…といってはあまりに陳腐で、ありきたりな作品に聞こえてしまいますが。奴隷制度と南北戦争を真正面から描いていたら、きっと2時間余りでは描ききれなかったことでしょう。

歴史の深部に踏み込まず、リンカーンのイメージも崩すことがない。
映画の設定としては賢明。ヒットメーカー、スピルバーグこそなしえたといえるのかもしれません。

最後に映画「リンカーン」の踏み込み不足を指摘した映画評(21世紀に入っても憲法修正13条に批准していなかった州があったというコメントも驚きでした)http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2013/02/post-533.php
をご紹介して、本ブログの第一幕を閉じたいと思います。

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